飲食店開業前に理解しておくべき人件費について

Labor costs

飲食店を開業するうえで切っても切り離せないものが、人件費です。飲食店を経営するのであれば、人件費の知識をしっかり身につけておく必要があります。本記事では、飲食店を開業する前に知っておくべき人件費について紹介します。

1.飲食店の人件費はどのくらいか?

飲食店の人件費はどの程度を占めるのかご存知でしょうか。お店によって割合は微妙に異なりますが、一般的に飲食店全体の売り上げのうち、30%は材料費、人件費は20%から30%と言われています。飲食店によっては人件費の割合が高いこともあります。

1-1.理想的な割合は

人件費の理想的な割合は30%を目安にすると良いと言われています。全体の30%を占め、材料費とは異なり毎月必ずコストとして発生する厄介な存在でもあります。お店を経営する方の中には、「人件費を抑えたい」と考える方もいるでしょう。

しかし、人件費を極限まで減らすと、スタッフの1人あたりの負担が大きくなってしまい、かえって業務効率が落ちてしまうこともあります。お店によってスタッフの配置人数が異なるため、開業前に必ず人件費をのどの程度にすべきか検討しましょう。

1-2.数値化して人件費を管理する

飲食店で人件費を管理する際は、人件費に対して重要となる指標を数値化すると管理しやすいと言われています。

大切な要素として、

・人時売上高(売上高÷従業員の勤務時間)=4000円〜5000円が適正
・労働生産性(粗利高÷人員)=50〜60万円程度が良い
・労働分配率(※後ほど詳しく紹介)

があります。特に重要な要素となるものは労働分配率ですが、スタッフの1時間ごとの売上高を表した、人時売上高や、1人あたりの生産性も大切です。それぞれ基準となる数値を目標にして人件費を設定する方法も良いでしょう。

しかし、人件費を設定する上で気をつけなければいけないことがあります。人件費を基準近くで設定をしていても、必ずしも健全な運営が出来るわけではありません。あくまで基準と捉えてお店独自の最適な人件費を設定しましょう。

2.FLコスト、FL比率について

人件費を算出する上で重要な指標があります。重要な指標は「FLコスト」と呼ばれるものです。FLコストは飲食店を経営する上で重要な指標になるため内容を把握しておくようにしましょう。

2-1.FLコストとは

FLコストとは、食材と人件費を組み合わせたもので、「FOOD(食料)」と「LABOR(労働)」の頭文字をとって、FLコストと呼んでいます。飲食店を経営するためにFLコストが比率を占めているのかを把握しておくと、経営状態が健全であるかどうかを判断することが可能です。

2-2.FLコストの計算式と比率

FLコストを算出する際は、下記の計算式を活用することで算出することが可能です。

・食材原価+人件費
FLコストを割り出した後は、FLコスト/売上高でFL比率を算出しましょう。特に重要になる数値が比率です。FL比率は売り上げの55%~60%が一般的だと言われています。

常に60%を超えてしまうと、いくら売り上げがよくても利益につながらないことがあります。少しでも利益を出したいのであれば、比率が55%以下になるように経営を目指しましょう。

2-3.FLコストを健全に保つ方法とは

FLコストを55%以下に抑えたいと検討しているのであれば、FLコストが下回るような売り上げ目標を設定する必要があります。開業後から55%以下を目指すことも大切ですが、まずは飲食店の平均で経営出来ることが大切です。

FLは人件費、原材料の双方で下げることが可能なため、人件費を削るだけでなく、食品ロスを下げる方法を検討する、仕入れ先を変えて原価率を下げるなど、飲食店経営を総合的に判断しながらコストを下げる方法を検討するようにしましょう。

3.労働分配率とは?

飲食店を経営し、スタッフを雇う場合、人件費をどの程度に設定をするかが頭を悩ませる要因の1つでもあります。他の飲食店と相場を合わせることも大切ですが、お店独自として人件費を設定することも大切です。

人件費を考慮する際に判断材料となるものが、「労働分配率」です。労働分配率は、「人件費」と「付加価値」から算出でき、業界によって相場が異なります。飲食店の場合、人件費÷粗利×100で算出できます。

「付加価値」は、商品を販売する際に提示した値段から仕入れた費用を差し引いた利益が該当します。飲食店の場合は、「付加価値」が粗利になると認識しておきましょう。付加価値がよくわからない場合は、お店の売上を大雑把に把握する「売上総利益」とほぼ同じであると考えると理解出来るのではないでしょうか。

労働分配率は、お店が労働者にどれだけ付加価値を与えることができたかが大切な指標となり、一般的には40%程度が良いとされています。

3-1労働分配率は高くすべき?それとも低くすべき?

お店によって方針が異なるため、一概にどちらにすべきとは言えません。しかし、高すぎる、低すぎると従業員に様々なリスクが考えられます。分配率を考慮する上で把握しておくようにしましょう。

例えば、労働分配率を高く設定した場合、従業員に対しての人件費は高くなるため従業員の給料は高くなります。しかし、売り上げから過剰に給料を供給していることになるため、お店の経営が突然悪化した場合、給料が保証出来ないケースがあります。

仮に給料を補填し、労働分配率を維持していたとしても今度はお店の経営が立ち行かなくなり最悪の場合は閉店に追いやられてしまう恐れがあります。
経済によって従業員の人員整理も必要になるため、分配率が高すぎると従業員、お店が総崩れでダメになってしまうことも認識しておくようにしましょう。

一方で、経済状況に左右されないために、低く設定した場合はどうでしょうか。低く設定をすると、お店の生産効率が低下してしまう可能性があります。従業員に対して支払う金額が少ないため、結果として従業員のモチベーションが下がってしまい、低い質のサービスしか提供できないリスクも考えられます。

3-2.労働分配率は適度なバランスが必要

労働分配率を検討する際は、適度なバランスを検討しましょう。従業員にリスクがなく効率よく働けるような環境を整えることも飲食店経営者に求められるスキルでもあります。お店によって最適な配分が異なるため、あらかじめ基準となる比率で設定をし、経営をしながら比率を調整していくようにしましょう。

4.人件費を削減する方法

どのようなお店でも、経営が赤字になってしまうリスクがあれば少しでもコストを抑える必要があります。人件費を削減する上ではどのような方法があるのか削減方法について考えていきましょう。

4-1.シフト編成の見直し

人件費削減で最も検討する必要があるものが、シフト編成の見直しです。適正な人員が配置されているのかを確認するようにしましょう。
改善の必要あるケースは、ピーク時間に過剰にスタッフが配置されているケースです。平日とそれ以外でお客さんの入りが違うのであれば、スタッフの配置人数を減らすようにしましょう。

しかし、スタッフの人数を調整するとスタッフの作業負担が増えてしまい結果として、サービスの質を全体的に落としてしまうことも考えられます。人員の少ない日は店長がサポートをする、繁忙時間だけアルバイトスタッフを多くして、アイドリングタイムを省くなどお店毎の効率化したシステムを考えるようにしましょう。

4-2.効率化システムの導入

食券を購入する券売機、ドリンクバー、セルフオーダーシステムなど飲食店で導入されている機械やシステムを導入することで、お店に配置する人数を減らすことも可能です。

システムを導入すれば、スタッフも無駄な作業がなくなるため業務の効率化を期待できます。一方で効率化するシステムを導入する際は、コストが高くなります。個人店の場合、導入コストが高く導入前に断念してしまうケースも珍しいことではありません。
効率化したシステムを導入する際は、将来的にどの程度コストを削減できるのか、導入した投資分はどの程度の期間で取り返すことが出来るのかを検討しながら導入を検討しましょう。

4-3.マニュアル化の徹底

業務の中には、無駄な仕事をスタッフがしている可能性があります。無駄を減らすことでスタッフの稼働時間を減らし、結果として人件費を削減することが可能になります。
無駄な業務が発生している背景には、マニュアル化されていない仕事があります。マニュアル化することで作業効率を高め、業務を改善することが可能です。マニュアルを作成し業務の無駄を減らすようにしましょう。

5.人件費削減でやってはいけないこと

人件費を抑える上でやってはいけないことがあります。次のようなアクションを行うと、人件費削減をした際にスタッフとトラブルになってしまう恐れがあります。以下のことは安易におこなわないようにしましょう。

5-1.スタッフを極限まで減らす

出勤人数を減らして最低限の人数にすると、1人あたりの労働効率を下げることになります。負担が大きくなれば、料理の提供スピードの低下、接客サービスの低下になり、結果としてお客さんが離れてしまう要因を作ってしまうことになります。

スタッフを極端に減らしてスタッフの人員を整理するのではなく、適正人数を配置するような努力をするようにしましょう。

5-2.安易なコストカットをしない

人件費を下げる最も簡単な方法として、解雇や賃金の引き下げがあります。人件費を削減する上では必要なことですが、スタッフにとってはモチベーションを下げてしまう要因になります。

解雇や賃金の引き下げは最終手段です。スタッフの信頼関係を保つために安易におこなわないようにしましょう。どうしても賃金の引き下げを行う場合は、経営が回復したところで、賃金を戻し、補填をするなど、スタッフが納得するような条件を提示してください。

5-3.スタッフを入れ替える

条件に納得のいかない従業員を切り捨て、新しい従業員を新しい条件で雇うと検討している経営者の方は、絶対にやらないようにしましょう。

従業員を入れ替える方法を導入すると、スタッフの育成時間が必要になることはもちろんのこと、お客さんへの信頼度を下げてしまう可能性があります。特に勤務歴が長いスタッフを人件費削減目的のために削ろうとする場合は、同じ人材を育てるために時間がかかります。

従業員は食材のように簡単に入れ替えることができないものと捉えて経営をするようにしましょう。

6.まとめ

飲食店を経営する上で人件費の考え方はとても重要です。今回紹介したポイントを確認しながら人件費をどの程度に設定すべきか考えるようにしましょう。
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